お気に入りの腕時計から赤色が完全に消えた。
文字にすると、自分でもよくわからないな。
大学の入学祝いとしてもらった腕時計である。
黒地に白文字の文字盤の中で、赤い秒針が存在感を放っていた時計。
ベルトは黒の革で、赤のステッチが入っていた。
3年くらい前、文字盤が故障してしまって修理することになったのだが、このとき同じパーツがもうメーカーにも無くて、違う文字盤に替えて直してもらった。秒針が赤でなくなり、黒地に白文字のシンプルな文字盤になった(これはこれで良いのだけど)。
その後しばらくして、ベルトも付け替えた。黒のベルトで、真ん中に赤いラインが入っているというものだ。
この時点でほとんどテセウスの船だったのだけど、このたび、もう少しフォーマルに使えるようにということで、真っ黒な革のベルトに交換したのである。
そんなこんなで構成要素はすっかり変わってしまったけれど、これが「入学祝いの腕時計」であるということは変わらない。
この腕時計は、物質の流れの中の「淀み」として、明日も明後日も俺の左手に(断続的に)あり続ける。
動的平衡万歳!